数時間前、DJI が産業用ドローンの新シリーズ「Matrice 4」を初めてリリースしました。これまで DJI の産業用ドローンは「Matrice 30」「Matrice 300」など大きく堅牢な機体が多く、遠距離測定用のレーザーなど特別な機能を搭載していることで知られています。
今回の「Matrice 4」シリーズは、その機能をさらに強化しながら、非常にコンパクトかつ携帯性にも優れたドローンとして登場。
2 機種のラインナップとなっており、それぞれ測量・フォトグラメトリー向けの「Matrice 4E」と、サーマルカメラを含む多機能を備え、セキュリティ・救助などに適した「Matrice 4T」が投入されました。
本記事では、新シリーズ「Matrice 4」の特徴を詳しく解説していきます。
Matrice 4T&Matrice 4E比較表
以下の表は、DJI の新しい産業用ドローン「Matrice 4T」と「Matrice 4E」を主要な項目ごとに比較したものです。
※ 本比較は現時点で公開された情報に基づいており、実際の仕様・性能は地域やファームウェアなどによって変わる可能性があります。
項目 | MATRICE 4E | MATRICE 4T |
---|---|---|
主な用途 | ・測量、フォトグラメトリー、地図作成・インスペクション(点検) | ・セキュリティ、捜索・救助・監視、消防、災害対策・各種インスペクション |
重量 | 約 1219 g | 約 1229 g |
ジンバル構成 | - 広角カメラ- 中望遠テレカメラ- 望遠テレスコープカメラ- レーザー測距装置 | - 広角カメラ- 中望遠テレカメラ- 望遠テレスコープカメラ- レーザー測距装置- サーマル(赤外線)カメラ |
広角カメラ | - センサーサイズ:4/3 型- 有効画素数:20 MP- 絞り:f/2.8~f/11 (可変)- 24 mm 相当- メカニカルシャッター搭載 | - センサーサイズ:1/1.3 型- 有効画素数:48 MP- 絞り:固定 f/1.7- 24 mm 相当 |
中望遠テレカメラ | - センサーサイズ:1/1.3 型- 有効画素数:48 MP- 絞り:固定 f/2.8- 70 mm 相当 | - センサーサイズ:1/1.3 型- 有効画素数:48 MP- 絞り:固定 f/2.8- 70 mm 相当 |
望遠テレスコープカメラ | - センサーサイズ:1/1.5 型- 有効画素数:48 MP- 絞り:固定 f/2.8- 168 mm 相当 | - センサーサイズ:1/1.5 型- 有効画素数:48 MP- 絞り:固定 f/2.8- 168 mm 相当 |
レーザー測距装置 | - 最大測定範囲:約 1,800 m | - 最大測定範囲:約 1,800 m |
サーマル(赤外線)カメラ | なし | - 解像度:640×512(標準) ※高解像度モード:1280×1024- 写真:JPG (8 or 16 ビット)- 動画:1280×1024 |
測定温度範囲 (サーマルカメラ) | — | - 高感度(高ゲイン):-20℃~150℃- 低感度(低ゲイン):0℃~550℃ |
主な撮影モード | - 5 方向のオブリーク撮影- 3 方向のオクタゴナル撮影- 高速連写(約 0.5 秒ごと) | - オブリーク撮影- 望遠・赤外線を組み合わせた多彩な撮影モード- ナイトビジョン(暗所撮影) |
伝送システム | 共通:OcuSync 4 Enterprise- 最大約 25 km 伝送可能- 最大 20 Mbps の高速ダウンロード- 4G/3G 回線対応(別売りの DJI Cellular Dongle 2 利用時) | 同左 |
障害物検知 | - 360° 障害物検知- 暗所(0.5 ルクス以上)対応- ※LiDAR 非搭載 | 同左+ ナイトビジョン強化 |
飛行時間(バッテリー1本あたり) | - 最大約 49 分(標準プロペラ)- 最大約 46 分(低ノイズプロペラ) | 同左 |
RTK (高精度測位) | - 上部に RTK モジュール内蔵- 基地局(D-RTK 2/3)などと連携可能 | 同左 |
主な対応ソフトウェア | - DJI Pilot 2, DJI Terra, FlightHub 2 など | 同左 |
価格(参考) | 約 7,999 ドル~ | 約 29,999 ドル~ |
主なメリット | - 4/3 型センサーによる高画質フォトグラメトリー- 測量や地図作成に最適- レーザー測定範囲が広い | - サーマルカメラ搭載で夜間・災害・警備に強い- AI 追跡など豊富な機能- 安全・救助ミッションに最適 |
注意点 | - 雨天など防水性能には非対応- 完全な暗闇での障害物検知には不向き (LiDAR 非搭載) | - M4E と同様、防水性能は限定的- 価格が高く、サーマル機能が不要な場合はオーバースペックになる恐れ |
- Matrice 4E は、大判センサー(4/3)で高精度なフォトグラメトリーに最適化されたドローンで、測量・地図作成などの業務に強みがあります。
- Matrice 4T は、サーマルカメラや強化された夜間機能を持ち、セキュリティ・災害対応・捜索救助など、24 時間体制で稼働する場面に適しています。
以下さらに詳しく解説していきます。
Matrice 4 シリーズの概要
1. 2種類のモデル展開
- Matrice 4E
- 重量:約 1219 g
- プロ仕様の測量(トップグラフィ)、フォトグラメトリー、地図作成に最適
- 点検・インスペクションにも対応可能
- Matrice 4T
- 重量:約 1229 g
- サーマルカメラや強化されたナイトビジョンを搭載
- セキュリティや捜索・救助、監視業務などに特化
いずれのモデルも、従来の産業用ドローンよりサイズをコンパクトにしつつ、産業・企業利用を想定した高精度な機能と高い耐久性を両立しています。さらに、人工知能(AI)を活用したターゲット追跡やスマートなフライトモードなど、最先端の機能が実装されています。
2. 特徴的な外観とコンパクト設計
外観デザインは「DJI Air 3S」にも似ているという声もありますが、背面には RTK モジュールが標準搭載され、プロ向けフォトグラメトリーの際にはセンチメートル単位での位置精度を得られます。機体自体は従来の Matrice シリーズよりも小型で携帯性に優れているため、フィールドへの持ち運びが容易です。
Matrice 4E:プロ仕様のフォトグラメトリーに最適
Matrice 4E は、測量・フォトグラメトリー・地図作成の現場で威力を発揮するモデルです。とはいえ、点検業務など多用途に対応できる万能型ドローンでもあります。
1. マルチセンサージンバルとレーザー測定
- 3 種類のカメラ + レーザー
- 広角カメラ
- センサーサイズ:4/3 型
- 有効画素数:20 MP
- 可変絞り:f/2.8 ~ f/11
- 24 mm 相当、メカニカルシャッター搭載
- 0.5 秒連写が可能で、最大 75 km/h の移動速度でも撮影が可能
- 中望遠テレカメラ
- センサーサイズ:1/1.3 型
- 有効画素数:48 MP
- 絞り:固定 f/2.8
- 70 mm 相当
- 望遠テレスコープカメラ
- センサーサイズ:1/1.5 型
- 有効画素数:48 MP
- 絞り:固定 f/2.8
- 168 mm 相当
- レーザー測距装置
- 最大測定範囲:約 1800 m
- リアルタイム測定精度で、測量・点検作業を効率化
- 広角カメラ
2. オブリーク撮影やオクタゴナル撮影
- 5 方向のオブリーク撮影機能
- デジタルツインや 3D モデル作成時に有利
- 3 方向のオクタゴナル撮影機能
- ドローンが側面方向に動きながら撮影するため、より精度の高い 3D データが得られる
これらの撮影データは、DJI の専用ソフトウェア「DJI Terra」で処理・分析が行えます。DJI Terra も今回アップデートされ、大規模なマッピングや 3D モデリングをスムーズに実施できるようになりました。
Matrice 4T:サーマルカメラ搭載の多目的モデル
Matrice 4T は、Matrice 4E の機能に加えて、サーマルカメラやナイトビジョン強化など、安全保障・緊急対応分野での活躍を想定したドローンです。
1. ジンバルの構成
- 3 種類のカメラ + レーザー + サーマルカメラ
- 広角カメラ
- センサーサイズ:1/1.3 型
- 有効画素数:48 MP
- 絞り:固定 f/1.7
- 24 mm 相当
- 中望遠テレカメラ
- センサーサイズ:1/1.3 型
- 有効画素数:48 MP
- 絞り:固定 f/2.8
- 70 mm 相当
- 望遠テレスコープカメラ
- センサーサイズ:1/1.5 型
- 有効画素数:48 MP
- 絞り:固定 f/2.8
- 168 mm 相当
- レーザー測距装置
- 最大測定範囲:約 1000 m
- 広角カメラ
2. サーマルカメラの性能
- 解像度:640 × 512(標準)
- 高解像度モード:1280 × 1024
- 写真フォーマット:JPG(8 ビット or 16 ビット)
- 動画解像度:1280 × 1024
- 温度測定範囲
- 高感度(高ゲイン)モード:-20℃ ~ 150℃
- 低ゲインモード:0℃ ~ 550℃
太陽光パネルや建物の断熱診断、消防・捜索・救助、セキュリティなど、幅広い業務で威力を発揮します。さらに近赤外線(NIR)ライトがあり、照射距離は最大 100 m。夜間や視界の悪い状況でも被写体を捉えやすくなっています。
共有する魅力的な機能
1. サイズはコンパクト、携帯性向上
従来の大型産業ドローンの機能を小型・軽量ボディに搭載しているのが最大の魅力。現場へ持ち運びが楽になり、チームでの展開もスピーディーに行えます。
2. 高度な障害物検知
- 障害物センサーの強化
- 暗所(0.5 ルクスほどの光)でも稼働
- 正確な夜間飛行が可能
ただし、LiDAR(ライダー)は非搭載のため、完全に光がない状況では注意が必要。
とはいえ、街灯やわずかな照明さえあれば十分に運用でき、視覚強化のナイトビジョンも利用できます。
3. OcuSync 4 Enterprise
- 最大伝送距離:約 25 km
- データダウンロード速度:約 20 Mbps
- 「DJI Cellular Dongle 2」と組み合わせれば、4G/3G 回線を利用した映像伝送も可能
4. 長時間飛行
- 標準プロペラ使用時で最大約 49 分
- 低ノイズプロペラ使用時で最大約 46 分
5. 運用効率とソフトウェア連携
- DJI RC 2 Plus Enterprise を使用し、リアルタイムに 3D モデルをモニタリング
- DJI Terra を用いた自動処理やレポート作成
- DJI Pilot 2 の大幅リニューアル
- 操作画面が産業用途向けに直感的でわかりやすい
- AI 用の SDK を活用し、特定のターゲットを学習・認識させるカスタマイズも可能
- FlightHub 2 のアップデート
- 遠隔地からの操作やモニタリング時に、捜索エリアを重複しないよう可視化
- 迅速な捜索・救助活動が可能
6. D-RTK ステーション(バージョン 3)対応
- 高精度測位のための基準点測量をサポート
- 複数ドローンへの同時位置情報提供が可能
- 基地局電波のブースト機能で、運用範囲を拡張
価格とラインナップ
- Matrice 4T(サーマル搭載モデル)
- 29,999 ドルから(参考価格)
- Matrice 4E(測量・フォトグラメトリー向けモデル)
- 7,999 ドルから(参考価格)
いずれもハードケースや付属アクセサリが同梱されますが、バッテリーは 1 本のみですので、追加購入が推奨されます。
まとめ
DJI の新シリーズ「Matrice 4」は、従来の大型産業用ドローンが持つ機能や耐久性を、コンパクトなサイズに凝縮した革新的な製品です。測量やフォトグラメトリーを中心に使いたい方は「Matrice 4E」を、サーマルカメラや夜間対応を重視する方は「Matrice 4T」を選択することで、幅広い産業シーンを網羅できます。
特に企業の設備点検や災害現場での捜索・救助、セキュリティ監視など、精度とスピードが求められる現場では、RTK や AI、ナイトビジョンなどが強力なアドバンテージになることは間違いありません。ただし、雨天での防水性能や完全な暗闇下での LiDAR 検知が欲しいユーザーにとっては、物足りない部分もあります。
とはいえ、このクラスのドローンとしては非常に完成度が高く、今後さらにアップデートや周辺機器が充実していくことが期待されます。実際のフィールドテストでは新たな発見や改善点もあるでしょう。もし導入をご検討されている方は、ぜひ各販売代理店やサポート窓口で詳細を確認してください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。より詳しい実機レビューやフィールドテストの結果などは、今後の更新でお伝えしていく予定です。どうぞお楽しみに!
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