OpenAIがリリースしたSora 2は数語のテキストから最大10秒の高品質な動画を生成できる画期的なツールです。思い通りの動画を生成するためには、詳細な文章(プロンプト)を作成することが鍵となります。
1. 成功するプロンプトの基本的な考え方
1-1. コントロールと創造性のバランス
プロンプトの記述方法には、主に二つのアプローチがあります。
制御と一貫性を重視する場合に適しています。カメラアングル、照明、色、動きといった細部にわたる具体的な指示を出すことで、モデルがあなたのビジョンに忠実に従うように導きます。
Sora2に創造的な自由を与えたい場合に適しています。予期せぬ美しい解釈やバリエーションが生まれる可能性があります。
プロンプトは「クリエイティブな願い事リスト」だと考えましょう。同じプロンプトを使っても結果は毎回異なるため、より良いオプションを探すために何度も試行することが重要です。
1-2. 最適なプロンプトの長さと構造
成功したプロンプトの分析によると、最適な長さは50〜100語で、2〜4つの文にまとめられていることが多いです。短すぎるプロンプトはプロの品質に必要な具体性を欠き、長すぎるプロンプト(150語以上)は、モデルに矛盾した指示を与えてしまう可能性があります。
プロンプトは映像制作の専門用語を使用し、以下の6つの必須要素を含めることで高い効果を発揮します。
2. 基本の6つの要素
以下の6つの要素を意識して文章を構成することで、Sora 2の生成結果の品質が飛躍的に向上します。
| 要素 | 目的 | 例 |
|---|---|---|
| 主題 (Subject) | 映像の中心となる人物や物体、および主要なアクションを定義します。 | 「ヘルメットを調整している宅配業者」 |
| 設定 (Setting) | ムード、時間、場所、雰囲気を確立します。 | 「夜の雨の東京のネオン路地」 |
| カメラ (Camera) | 視点、フレーミング、視覚的なスタイルを制御します。 | 「クローズアップ、35mmレンズ、浅い被写界深度」 |
| 動作 (Motion) | カメラまたは主題の動きのダイナミクスとペースを設定します。 | 「ハンドヘルドカメラでゆっくりと進む」 |
| オーディオ (Audio) | サウンドデザインの要素(効果音、環境音、会話)を指定します。 | 「濡れたアスファルトの音、周囲の雨音」 |
| 制約 (Constraints) | 避けるべきことや、維持すべき品質を定義します。 | 「レンズフレアなし、一貫したカラーグレーディングを維持」 |
構造化されたプロンプトの例
上記の要素を全て含んだプロンプトの例です。
プロンプト例(東京の路地)
「雨の東京のネオン路地、夜;ヘルメットを調整している宅配業者にクローズアップ;35mmレンズ、浅い被写界深度;ハンドヘルドカメラでゆっくりと近寄る;濡れたアスファルトはネオンのピンクとブルーを反射して光り輝く;ムードのあるシンセウェイブのカラーパレット;周囲の雨音と車の通過音が混ざり合う;レンズフレアなし、一貫したカラーグレーディングを維持。」


3. プロの品質を引き出すための具体的なキーワード
Sora 2は、映画撮影や音響デザインの専門用語に強く反応します。これらの専門用語を意識的に使うことで、生成される動画のプロフェッショナルな品質を高めることができます。
3-1. カメラとフレーミングのキーワード
曖昧な指示ではなく、視点やレンズの効果を明確に記述します。
| 項目 | 具体的なキーワード例 | 効果 |
|---|---|---|
| アングル・視点 | ローアングルショット (Low angle shot) ドローン空撮ショット (Drone flyover shot) 一人称POV (First-person POV) | 視点を明確にし、空間や緊張感を強調します。 |
| レンズ | 35mmレンズ 浅い被写界深度 望遠圧縮 (Telephoto compression) | 背景を美しくぼかしたり(シネマティックなボケ)、遠近感を調整します。 |
| 動き | トラッキングショット (tracking shot) ドリーズーム (dolly zoom) スローモーション (Slow-motion clips) | カメラのダイナミックな動きや、時間の流れ方を指定します。 |
| 照明 | ゴールデンアワーの逆光 (golden hour backlighting) リムライティング (rim lighting) 体積光 (volumetric light) | ムードやドラマ性を生み出す照明効果を指定します。 |
3-2. オーディオ(音響)のキーワード
Sora 2のオーディオ機能を最大限に活用するためには、音の種類とタイミングを詳細に記述します。
| カテゴリ | 具体的なキーワード例 | 効果 |
|---|---|---|
| 衝撃音 | thud (重くこもった衝撃音) crack (鋭い破損音) clang (金属衝突音) | 物体同士のリアルな衝突音を再現します。 |
| 動作音 | whoosh (速い空気の動き) rustle (布/葉のざわめき) scrape (表面をこする音) | 動きに伴う摩擦や空気抵抗の音を付与します。 |
| 環境音 | ルームトーン (Room tone) distant traffic rumble(遠い交通のランブル音) ceramic cup clinks (陶器のカップの音) | シーンの背景となる音響空間(アンビエンス)を豊かにします。 |
| タイミング | 「Dialogue begins at 0:03」 「2-second pause before response」 「Laughter crescendos from 0:05 to 0:08」 | 会話や音響効果の発生タイミングを秒単位で指定し、映像と同期させます。 |
3-3. 物理学のキーワード
Sora 2は複雑な物理法則を理解しているため、物理用語をプロンプトに加えることで、動きのリアリズムが向上します。
| カテゴリ | 具体的なキーワード例 | 効果 |
|---|---|---|
| 材質 | Low friction ice surface (低摩擦の氷面) Elastic rubber ball (高弾性のゴムボール) High buoyancy cork (高い浮力のコルク) | 摩擦、弾性、浮力など、素材ごとの振る舞いを正確にシミュレートします。 |
| 力と動き | Inertia (慣性) Momentum (運動量) Acceleration (加速度) Strong gravity (強い重力) | 物体の動きのダイナミクスを制御します。 |
| 相互作用 | Elastic collision (弾性衝突、物体が跳ね返る) Decreasing rebound (各バウンドで反発が減少) Fluid dynamics (流体ダイナミクス) | 衝突や水の動きをリアルに表現します。 |
4. スタイルやテーマ別の具体的なプロンプト例
Sora 2は、特定のスタイルやジャンルを参照したプロンプトに強く反応します。以下のキーワードをプロンプトの冒頭に配置することで、一貫した美的感覚をモデルに設定できます。
4-1. 映画・アニメスタイルを指定する
| カテゴリ | 具体的なキーワード例 |
|---|---|
| 映画 | Star Wars The Matrix Jurassic Park John Wick |
| ゲーム | Grand Theft Auto (GTA) Minecraft Elden Ring |
| シネマティック | Noir detective (ノワール探偵) Found footage horror (ファウンドフッテージ・ホラー) Wes Anderson symmetry (ウェス・アンダーソンの対称性) Slow motion clips |
| 時代 | 1950s black & white (白黒) 1980s neon vaporwave Cyberpunk future |
4-2. 創造的なアイデアを活用するプロンプト
Sora 2の驚くべき創造性を引き出すための、ユニークなプロンプトのアイデアです。
| カテゴリ | 具体的なキーワード例 |
|---|---|
| 動物の擬人化 | Cat driving a car (車を運転する猫) Dog playing piano (ピアノを弾く犬) Giraffe in a business suit (ビジネススーツを着たキリン) |
| 非現実的な概念 | Floating islands in the sky (空中に浮かぶ島) Ocean made of glass (ガラスの海) Rain falling upward (上向きに降る雨) Giant eye in the sky (空に浮かぶ巨大な目) |
| クリエイティブなアクション | Flip a switch and turn into a cartoon character (スイッチをフリップしてカートゥーンキャラクターに変わる) Accidental time traveler in a coffee shop (コーヒーショップに偶然現れたタイムトラベラー) |
5. 高度なプロンプトテクニック:一貫性と制御
5-1. マルチショット・ナラティブ(連続したシーン)
複数のショットを含むシーケンスを生成する場合、各ショットブロックを明確に区切り、一貫性(コンティニュイティ)を維持するための指示を明記します。
例: 「三つのショットの感情的なシーケンス:
ショット1, 0:00-0:03 クローズアップ、女性が手紙を読み、表情が驚きに変わる。
ショット2, 0:03-0:06 手が震え、手紙がスローモーションで床に落ちる。
ショット3, 0:06-0:10 ワイドショット、女性が椅子に重々しく座る。一貫したライティング(ソフトな窓の光)と衣装(青いセーター)を維持。」



5-2. Cameo(カメオ)機能の活用
「カメオ」機能を使うと、ユーザー自身の外見や声を、AIが生成した任意の環境に挿入できます。プロンプト内で「Using my cameo video (私のカメオ動画を使用して)」と明記し、環境、アクション、カメラワークを指定します。
例: 「私のカメオ動画を使用して、私を夜のサイバーパンクな路地に配置する。ネオンサインが足元の水たまりに反射している。私はホログラフィックインターフェースを調整しており、心配そうな表情をしている。メディウム・クローズアップ、ハンドヘルドカメラ。」
6. プロンプト作成上の注意点
- APIパラメータはプロンプトで制御できない:動画の解像度(720pなど)や最大尺(10秒)は、プロンプト内で「もっと長くしてほしい」と記述しても変更されません。これらはAPIコールやアプリのパラメータで設定する必要があります。
- シンプルな動作を推奨:動きはモデルが最も間違いやすい部分の一つです。最初は「カメラがゆっくりと左にパンする」といった一つのはっきりした動きに絞ることで、安定した結果が得られます。
- 品質保証の制約:予期せぬアーティファクト(不自然な変形)を防ぐため、「一貫した顔の構造を維持する、モーフィングや歪みなし」といった制約を加えることを推奨します。
まとめ
Sora 2は、単なるAIツールではなく、物理法則と音響をシミュレートする「デジタルな映画スタジオ」です。初心者の方がプロの品質に近づくためには、まずは6つの必須構成要素を意識し、「映画撮影監督への指示書」のように具体的で構造化されたプロンプトを作成することが最も重要です。このガイドのヒントを参考に、あなたの創造的なビジョンを現実の動画として実現させてください。



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