タムロンがソニーEマウント向けに初めて投入したフルサイズミラーレス専用設計の標準ズームレンズ、28-75mm F/2.8 Di III RXD (A036)は、発売以来非常に高い人気を誇る製品です。F2.8という明るさを維持しながら、驚異的な小型・軽量化とコストパフォーマンスを実現しており、多くのユーザーから常用レンズとして選ばれています。本記事では、詳細な実機レビューをお届けします。
スペックと外観デザイン
Model A036は、大口径ズームでありながら日常的に持ち歩けるサイズ感を目指して設計されました。
タムロン28-75mm F/2.8 Di III RXD (A036) スペック表
| 項目 | 詳細仕様 |
| モデル名 | A036 |
| 対応マウント | ソニー Eマウント用 |
| 焦点距離 | 28-75mm |
| 明るさ(最大絞り) | F/2.8 |
| 最小絞り | F/22 |
| レンズ構成 | 12群15枚 |
| 画角(対角画角) | 75°23′ – 32°11′ |
| 絞り羽根枚数 | 9枚(円形絞り) |
| 最短撮影距離 | 0.19m (WIDE) / 0.39m (TELE) |
| 最大撮影倍率 | 1:2.9 (WIDE) / 1:4 (TELE) |
| フィルター径 | φ67mm |
| 最大径 | φ73mm |
| 長さ | 117.8mm |
| 質量 | 550g |
| AF駆動 | RXD (Rapid eXtra-silent stepping Drive) |
| 手ブレ補正機構 | 非搭載 |
| 耐候性 | 簡易防滴構造、防汚コート採用 |
| 標準付属品 | 花型フード、レンズキャップ |
| 価格 | 110,000円(税込) |
驚異的な軽量・コンパクト設計
本レンズの最大の特徴は、質量わずか550gという軽さです。ソニー純正の同クラスレンズであるFE 24-70mm F2.8 GM(886g)と比較すると、300g以上も軽量に仕上がっています。全長は117.8mm、最大径は73mmとスリムで、α7シリーズのコンパクトなボディに装着した際のバランスが非常に良好です。



実用性を重視した質感と操作性
鏡筒の素材にはポリカーボネート(プラスチック)が採用されており、これが軽量化に大きく貢献しています。外観は装飾を削ぎ落としたシンプルかつマットな質感で、タムロンの新しいデザインコンセプトであるヒューマンタッチに基づいています。高級レンズシリーズであるSPの名称は冠されていませんが、造りはしっかりとしており安っぽさは感じられません。ズームリングとフォーカスリングは適切なトルク感があり、操作性は良好です。

描写性能の評価
最新の高画素カメラに対応する高い解像力と、大口径ならではの柔らかなボケ味を両立させています。
解像力と発色
ズーム全域で、絞り開放から画面中央部は非常にシャープな描写を見せます。F4からF5.6程度まで絞り込むと周辺部まで画質が安定し、風景撮影でも十分に通用する性能を発揮します。発色については、コントラストが高く豊かな描写が特徴ですが、ソニー純正レンズと比較するとやや暖色系に寄る傾向があります。
ボケ味の特性
9枚羽根の円形絞りを採用しており、美しい円形ボケを楽しむことができます。最短撮影距離付近でのボケは非常に柔らかく高く評価されていますが、被写体との距離や背景の状況によっては、後ボケがざわついたり、硬く感じられたりするシーンもあります。また、非球面レンズの影響により、年輪状の模様(玉ねぎボケ)が発生する場合があることも指摘されています。
逆光耐性と収差
BBARコーティングによりフレアやゴーストは一定程度抑えられていますが、強い光源を画面内に入れるとゴーストが発生しやすく、逆光耐性は平凡なレベルと評価されています。歪曲収差や周辺減光については、カメラ内の補正機能を利用することを前提とした設計となっており、補正をオンにすることで実用上の問題はなくなります。
圧倒的な近接撮影能力
Model A036の大きな強みの一つが、従来の標準ズームの常識を覆す最短撮影距離の短さです。
広角端28mmでは最短撮影距離0.19mを実現しており、レンズ先端からわずか5.7cmまで被写体に近づくことができます。これにより、広角特有のパースペクティブを活かしたダイナミックなマクロ表現が可能です。望遠端75mmでも最短撮影距離0.39mまで寄ることができ、最大撮影倍率は1:4を達成しています。テーブルフォトやブログ用の物撮りにおいても、この寄れる性能は極めて重宝します。

オートフォーカス性能と信頼性
AF駆動には、ステッピングモーターユニットであるRXD (Rapid eXtra-silent stepping Drive)が搭載されています。
静粛性と対応機能
RXDは動作音が極めて静かで、静止画だけでなく動画撮影においても駆動音が記録されにくいメリットがあります。ソニー製のカメラが備えるファストハイブリッドAF、瞳AF、ダイレクトマニュアルフォーカス(DMF)といった主要な機能にも完全に対応しています。
AF速度とアップデート
AF速度については、ソニー純正のリニアモーター駆動レンズと比較するとサーチ中の初速がやや遅く、アクションスポーツなどの激しい動きには不向きな面があります。また、発売初期には特定の条件下でピントが合わなくなるバグが報告されましたが、ファームウェアアップデート(Ver.3など)によって通信の安定性やAF動作の改善が行われています。

妥協点と注意すべきデメリット
コストパフォーマンスと引き換えに、いくつかの割り切った設計もなされています。
広角端28mm
一般的な標準ズームレンズが広角端24mmであるのに対し、本レンズは28mmスタートとなっています。この4mmの差は風景撮影や狭い室内での撮影において、画角の狭さを感じる時もあります。24mmという広い画角を重視するユーザーにとっては、慎重に検討すべきポイントです。
物理スイッチの省略
鏡筒にはAF/MFの切り替えスイッチや手ブレ補正スイッチなどの物理的な操作部が一切ありません。これらの操作はカメラ側のメニューやカスタムボタンで行う必要があります。また、レンズ自体に手ブレ補正機構は搭載されていませんが、ボディ内手ブレ補正を備えたαシリーズで使用する分には大きな問題にはなりません。
作例





















総評
TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III RXD (Model A036)は、F2.8通しの大口径ズームでありながら、軽量コンパクトさと手の届きやすい価格を実現した、極めてバランスの良いレンズです。
広角端が28mmであることや、ボケ質にやや癖があることなどの妥協点は存在するものの、それを上回る利便性と描写力を備えています。特に優れた近接撮影能力は、日常のスナップから物撮りまで、このレンズ一本でカバーできる範囲を大きく広げてくれます。ソニーEマウントのフルサイズユーザーにとって、常用レンズとしてまず検討すべき一品であることは間違いありません。
このレンズは、最高級の贅を尽くした道具というよりも、実用性を極限まで追求した非常に誠実な道具と言えるでしょう。その後、光学系やAF性能をさらに向上させた後継モデルのModel A063 (G2)も発表されていますが、初代である本モデルも依然としてコストパフォーマンスに優れた選択肢であり続けています。






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